夜男11話 「忠義、忠義」 帰ってすぐにベッドで身を投げて眠り込んでいた忠義を呼ぶ声がする。 忠義にとっては懐かしさを感じる高めの甘い声に目を覚ます。 まだ重い瞼をこじ開けて体を起こしたものの、部屋は忠義が帰って来たときのまま、しんと静まり返っている。 夢か幻聴か・・・ 少し長い溜息をついて後ろに倒れこむ。 ベッドが軽く軋んで、少し固めのマットレスが、倒れこんできた忠義を少しだけ跳ね返した。 現実のものではないにしろ、久しぶりに聞いた声に言い知れぬ安心感を覚えたのも事実だった。 きっとこれは今朝のことが原因に違いない、と忠義はまだ上手く働いていない頭で考える。 仁の放った最後の一言が忠義の脳内を支配していく。 「待ち受け、彼女?」 あの時、胸を張って「彼女ですよ」と言えたならどんなに良かっただろう。 いや、言おうと思えば言えたのかもしれない。 言わなかったのではなく、言えなかった。 「くそっ・・・」 忠義は頭をぐしゃぐしゃと掻きながら、込みあがってくる苛つきをすぐそばにあった枕にぶつけたものの、 その苛つきは忠義から出て行くことなく、忠義の苛つきを更に増長させた。